試合前にアジア野球連盟と口論

アジア選手権の大会2日目、侍ジャパン社会人代表との一戦を迎えた。日本代表は、アップ、守備、そして打撃とそれぞれ専門のコーチが付き、試合への準備を淡々と進めていた。一方のパキスタン代表は、コーチ陣はなぜか散歩し、選手は指示待ち状態になっていた。

アジア選手権大会2日目で迎えた侍ジャパンとの一戦

試合開始前、アジア野球連盟とパキスタン代表は、試合準備の時間配分をめぐってちぐはぐしていた。試合前のノックは10分と決められているが、予定表にはキャッチボールの時間は記載されていない。しかし、パキスタン代表がノックの前にキャッチボールをしているのを見た連盟の役員が、キャッチボールの時間もノックに含むとして、「早くノックを始めろ」と指示してきたのだ。先にノックを行った日本代表もノック前にキャッチボールをしていたが、その時間はノック時間に含まれていなかった。

連盟側は、毎大会予定時間通りに進まないパキスタン代表の試合を、何としても時間通りに進めようとしていた。一方でこちらとしては、試合前の準備内容を急に変更することは選手にいらぬ負担をかけるので、了承できなかった。私も役員も譲らず、口論にまでなった。結局、役員と決着がつかないまま私はノックに入り、パキスタン側は予定通り試合前の準備を終えた。その後、試合前に気持ちを落ち着かせてから、再び役員と話し合い和解したが、身体がいくつあっても対応しきれないと限界を感じた試合前だった。結局、試合は力及ばず、コールド負けした。

コーチは軍と警察の元幹部

試合前の現場は、非常にめまぐるしい。コーチ陣の協力がないと、私の仕事は分刻みになる。パキスタンにもコーチが2人付いていたが、投手、打撃、守備、トレーニングといったカテゴリー別に分けられる知識や専門性はない。野球の知識は乏しく、コーチというより、パキスタン野球振興への貢献者が同行しているのが実情だ。彼らの野球への理解と協力で、代表チームはなんとか成り立つ。

 コーチ陣はそれぞれ、軍と警察の元幹部だ。軍人のコーチは、軍人選手を引っぱる統率力はずば抜けているが、基本的に野球の知識は何もない。毎度、問題を起こすのが警察のコーチであり、普段は練習に来ない上、突然中途半端な野球の知識に基づいた根も葉もない指導をして、選手を困惑させることもある。本来はコーチとしての素養を身に付けた上で同行させるのが理想だったが、今回の1カ月という過密スケジュールでは、コーチのための勉強会まで催す時間がなかった。

軍人選手の強靭なメンタル

ピンチの場面で失点を防いだパキスタン代表。侍ジャパン相手に、2回まで無失点で終えた

パキスタン野球を支える強さは、軍隊出身者の統率力とプライドである。どんなに苦しい状況でも、絶対に弱音を吐かず、やりきる。指導者としては、疑問に思ってくれないと面白くないときもあるが、彼らは言われたことを必ず遂行する、チームとして絶対的に必要な存在である。

侍ジャパンとの試合中にもそんな場面が訪れた。侍ジャパン相手に2回無失点で終えたことに興奮した警察のコーチが「次のピッチャー準備しろ。十分やったよ。はっはっは」と満足げに指示を出し始めたのだ。なぜ急にコーチがこんなことを言い始めたのか疑問だったが、私は3日後の中国戦に向け、最低3回、長くて5回まで投げさせようと考えていた。選手たちは当然コーチに逆らえないため、一気に微妙な雰囲気が流れた。

私は個人的にその軍人出身の投手の意思を確認したく、彼をベンチ裏に呼んだ。すると彼は、私の心配をよそに「何をおっしゃいますか。言われた通りやり切りますよ」と、再びマウンドに上がっていった。チームの雰囲気が悪くなった状態でも、彼は4回途中3失点と想定通りに投げきってみせた。私は結果よりも、このチーム状態で世界一の侍ジャパン相手にやりきる彼の意思の強さに可能性を感じた。

能力ある「パキスタンの原石たち」を生かせ

チームの雰囲気が悪くなる中、4回途中3失点に抑えた軍人出身の選手

侍ジャパンとの戦いを通して、チームの構造をいち早く理解し、与えられた環境と選手を適材適所に活かすことが必要だと強く感じた。能力の高い選手、精神的に成熟した選手という今ある資源を生かす体制作りが急務である。縦社会であるパキスタンにおいて、これがどれだけ大きな難題であるかは重々に承知している。それでも、パキスタンの原石たちが、その壁を超えた先のパキスタン野球を見てみたいという私の好奇心をくすぐる。

Respectfully,

TOMA