最大のライバル・中国に挑む

最大のライバル、中国戦に臨んだパキスタン代表

西アジアの絶対的王者、パキスタン。この20年の急速な成長に加え、西アジア地域での野球の普及への貢献度は、目を見張るものがあった。しかし、近年パキスタン野球はアジア4強の壁を前に停滞を続けている。その打開策として外国人監督を起用したが、再び目標としていた中国戦に敗退した。

アジア選手権期間中、パキスタン代表が2016年にアメリカで開催されるWBC予選の出場資格を得たという朗報が入った。もし野球の神様がいるならば、何度折れても立ち上がり続けるパキスタン代表を見捨てなかったと言えるのではないか。野球場すらない国パキスタンが、過酷な環境を乗り越えWBCという野球の世界大会予選へと駒を進めた快挙を、いち野球ファンとして祝福したい。

 日本、韓国、台湾という強豪3カ国との連戦を終え、目標としていた中国戦。パキスタン代表は、期待通りの実力を発揮し、6回まで0−2と善戦していた。1つのチャンスが、試合を大きく動かす展開。我慢に我慢を続けるパキスタンに対し、しびれをきらした中国首脳陣が審判へ抗議するなど、激怒して平静さを失っている場面も見受けられた。私は、必ずもう一度チャンスが来ると踏んでいた。パキスタン打線は中国左腕を前に、8回を終えてヒットは2本。中国が5点リードして迎えた最終回、中国は抑えの右投手を投入し、パキスタンはヒットで出塁。1アウト1塁の場面を作った。そのとき、中国ベンチが騒がしくなった。監督の指示で、ファーストを牽制のために、ベースにつけるかつけないかでもめていたのだ。中国選手は困惑した様子だったが、私も困惑した。なぜなら中国代表監督は、MLBシアトルマリナーズで監督を務めた経験のあるジョン・マクラーレン氏。私の経歴からすれば、彼は神の世界を知る指導者の一人だ。

最終回に立ちはだかったアメリカ野球の「紳士ルール」

6回まで0−2と善戦したパキスタン代表

局面は違えどアメリカ野球には、こういった場面における暗黙の世界が存在する。明らかに点差が離れ、勝ちが決まったような試合では、サインプレーなどの戦術などは使わず、ただ打って、走って、守るというシンプルな野球本来の姿に戻るのだ。これは、アメリカ野球における紳士な行為であり、日本野球とは違う価値観の一つだと私は解釈していた。また、こういった場面で、盗塁などの個人記録を稼ぐ行為は、ビーンボールなどの報復の対象となり、相手に失礼な行為とみなされるのだ。

 私は結局、盗塁のサインを出すことなく、パキスタン代表は後続が倒れ0−5で敗退した。結果論ではあるが、最後で最大の山場を逃した原因は、守りに入った監督である私の責任。この場面で、判断力が鈍った私は、相手に失礼な采配はできないと、なんの根拠もなく守りに入っていた。

底知れぬ可能性を持つパキスタン野球

中国戦後に抱き合う色川監督とパキスタン代表選手

この試合、選手は本当にすごかった。苦しい場面で決めた牽制死、ダブルプレー。何度も苦しい場面を、練習で鍛えてきた守備で乗り越え、流れを自ら引っ張り続けた。それが、最後の最後に、私はみんなの努力を台無しにする大きなミスを犯した。もし私が盗塁のサインを出していても、うまくいった保証はない。しかし、競技スポーツにおける結果は全てを語る。

この事実は、プレーしていた当のパキスタン選手も、観戦していたお客さんも気付いていなかったかもしれない。マクラーレン監督と私の暗黙のやりとりで終わっていたかもしれない。パキスタン野球連盟も、WBC出場を決めたことで、すでに大会を終えたかのようなお祝いムードだったこともある。

それから2週間、信じられないほどに私は活力が湧かなかった。結果を残せなければ、ただの人。改めて痛感する一戦となった。一方で、アジア選手権という大舞台にて、習得したスキルを堂々と披露する選手の姿からは、底知れぬ可能性を感じた。私が落ち込んでいる2週間、半分以上の選手が「練習再開」のメッセージをくれた。歩みを止めることを知らないパキスタン野球、2016年、念願のWBCへと挑戦する。新たなステージ、アメリカ・ニューヨークで、パキスタングリーンがどんな輝きを見せるのか、目が離せない。

=おわり

Respectfully,

TOMA